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大阪高等裁判所 昭和37年(ツ)110号 判決

判   決

神戸市生田区中山手通一丁目八一番地

上告人

堀池治水

右訴訟代理人弁護士

長嶋隆成

神戸市生田区中山手通一丁目七五番地

被上告人

申松子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

遺産分割前の共同相続財産たる不動産は共同相続人の共有となり、その管理は共有に関する民法第二五二条本文の規定に従つて持分過半数決議によつて決すべきであり、共同相続財産たる不動産の占有使用者を決定することは民法第二五二条本文の管理行為にあたるものと解するのを相当とする。

したがつて、論旨は採用できない。

上告理由第二点について。

原判決は、被上告人が本件家屋の一五分の九の過半数の共有持分を有するが故に直ちに本件家屋と占有使用する権利ありと判示しているのではなく、本件家屋の過半数の共有持分を有する被上告人が民法第二五二条本文に従い本件家屋の管理方法につき自ら占有使用することに決しその旨上告人に通告したことにより、被上告人が本件家屋を全面的に占有使用する権利を有するに至つたものと判示しているのである。

「被上告人が本件家屋を占有使用する意思を有しない」との点及び「共有者であるという以外の上告人の本件家屋占有権限」について、上告人は原審において何等主張していない。のみならず、これを認めるに足る証拠もない。

したがつて、論旨は採用できない。

よつて、本件上告を棄却し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西   勝

裁判官 中 島 孝 信

上告理由

原判決は法律の解釈を誤り法令に違背するばかりでなく審理不尽を免かれない誤判である。

一、原判決理由第三項「本件家屋明渡請求について」中……控訴人(被上告人)は過半数(十五分の九)の共有持分を有するものとして本件家屋の管理につき自ら使用収益することに決意した」ことを原因として家屋明渡請求に及んだのに対し民法の共有一般規定を適用し被上告人に家屋明渡請求権ありと認定し上告人の主張を排除したのは法の解釈を誤るものである。

本件家屋は上告人等の先代堀池末三郎所有のところ同人が昭和二十五年二月三日死亡により上告人等遺族によつて各相続分に応じ共同相続したが本件家屋(其他の遺産)につき遺産分割未だ行はれないうちに被上告人は上告人以外の相続人から各々の相続共有持分を譲り受けて以て共有持分十五分の九を取得したのであるがここに云ふ相続財産による共有は民法の共有と其性質を異にするもので相続財産による共有はやがて相続財産の分割によつて各相続人への権利義務の帰属が当事者間の協議或いは家事審判によつて分割決定さるべき運命にあるものであつてそれまでの一時的措置でその権能は未確定に伴う制限を受けておるもので民法上の純然たる共有とは自らその性能を異にするものである従つて遺産共有は将来の分割を共同目的とするもので各相続人の固有財産とは独立した特定財産であるそうであるから各相続人に遺産全体に対する相続分と個々の相続財産について処分権(譲渡等)を認めるか分割確定のあかつきは遡及効を生ずるのである、かかる法理は民法の共有一般規定によるべきではなく合有の法理を以て解するのが学説の一致するところである。

而して遺産共有の管理権は共同相続人の全員に属し其目的は管理の保全を期するにあるので被上告人が過半数の持分を有すればとて被上告人の本件の目的が本件家屋を競売に付し其競落による売得金の分配にあづかりたいためにする本件家屋明渡請求が遺産共有の管理権を逸脱せることは論をまたないところで被上告人にかかる処分権もなければ管理権に基く明渡請求の権能もなし

若しこの場合上告人に於て相続分の範囲を越えて使用収益したというなればこれに因つて利得返還等の問題がおこるかも知れんがこれはあくまで管理の保全を期する範囲に於てである

要するに被上告人は相続分の持分の過半数の譲渡を受けたことを理由に其管理権に基き相続人の一人である上告人に対し共有分割処分兼家屋明渡請求権ありとの被上告人の主張を原審は容認したのであるが本件遺産は既述の通り未だ分割決定せず純然たる共有とその趣きを異にするかかる段階にある遺産共有が同法規定によつて処断され得るとすれは遺産分割の基準規定も家事審判も不要である

第二、原判決理由第三項中「……上告人は本件家屋の共有者であると云ふ外本件家屋の占有権限について何等の主張立証をしないから同家屋を現実に使用収益し得るものは被上告人のみであつて上告人ではない……」とあたかも被上告人が十五分の九の過半数の持分を有するが故に上告人の占有を排除して同家屋を使用収益する権利ある如く判示するがここに著しき事実誤認がある被上告人は本件家屋を競売し換価して分配金を取得するのが目的であつて被上告人自身本件家屋を使用収益する意志のないことは記録上明白なところであるところが「……本件家屋を現実に使用収益し得るものは被上告人のみで上告人ではない」と即断したのは事実を誤認した上余計な判断を付加したものである、本件家屋の敷地が上告人の所有であること、上告人は先代末三郎死亡以前から同家屋に居住し今日に至るもので正当な権原に基く占有権あるにかかはらず原審はこの点に付上告人の主張立証なしとの理由で審理せず下された原判決は審理不尽を免かれない。

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